この記事では、窓ガラスが力を加えなくても割れる現象「熱割れ」について、その原因と発生しやすい条件について詳しく解説します。対策は施工前の設計段階で出来ること、施工後に出来ること両方解説します。
本解説のガラス種類や特徴が分からない方はこちらをどうぞ 【解説】窓ガラス全16種類|特徴と選び方
熱割れとは?
熱割れとは
窓ガラスが力を加えなくても割れる現象で、特に複層ガラスや網入りガラス、フィルムを貼ったガラスで起こりやすいです。
季節は良く晴れた冬の朝が最も多いです。最近は猛暑の影響で、夏にも発生しています。
熱割れの原因とメカニズムは「温度の不均衡」
熱割れの原因は、ガラス一枚の中で「温度の不均衡」が起こる、つまり温度の高い部分と低い部分が発生することです。ガラスの温度が高くなると割れると勘違いされていますが間違いです。
たとえば冬の朝で、外気温は0℃付近で非常に寒い日、朝日がガラスに当たります。太陽光の影響でガラスの温度は条件により50℃近くまで上がることがあります。ただし、サッシ枠は外気に直接触れているため、外気温に近い温度となります。この時、窓ガラス一枚の中で中央付近は50℃、サッシ枠に飲み込まれたガラスエッジは10℃以下という状況が発生します。この、大きな温度差が原因で熱割れが発生します。(※諸条件で熱割れの発生するしないは変わるため、一概に何℃だと発生するかは言えません)
ガラスの中央、高温の部分は膨張をしますが、周辺の低温部分はほとんど膨張しません。この時、ガラス一枚の中での膨張率の違いによりガラス内に大きな応力が発生します。さらに、ガラスはサッシのフレームに固定されているため拘束力により、発生する応力はさらに大きくなります。
割れ方の特徴と判断
熱割れかどうかはガラスエッジ(サッシ枠に飲み込んでる部分)を見て判断出来ます。ガラスエッジから直角にヒビが入っていたら熱割れです。ヒビが一本か二股かで発生した温度差の傾向がわかります。二股に割れたなら、かなり大きな温度差の発生を示します。
また、複層ガラスでは室内側のガラスが割れます。
熱割れしやすい条件
熱割れしやすい条件は「ガラス内の温度の不均衡」が起こりやすい条件と言い換える事もできます。また、どれか一つでも当てはまれば危険なわけでは無く、いくつか条件が重なると割れることがあります。ただし、一概にどの条件で割れるかの判断は難しく、ガラス業者へのシミュレーション依頼が必要です。
ガラスの種類や特徴
網入りガラス、線入りガラス
網入りガラスはガラス内部の金属製の網が、太陽光の熱を吸収しやすくガラスの温度が上がりやすいです。そのため温度の不均衡が大きくなりやすいです。またガラス内に異物である網が入るため、そもそもガラス自体の強度(許容応力度)が低いです。フロートガラスの許容応力度が17.7MPaに対し、網入りガラスは9.8MPaのため、ガラスが同じ温度でも網入りガラスは先に割れます。実際、熱割れ発生事例の多くが網入りガラスです
ペアガラス、Low-Eペアガラス
ペアガラスは室内側のガラスが外気に触れないため、温度が上がりやすいです。ペアガラスで割れるのは室内側のガラスです。またLow-Eペアガラスは更に割れやすくなります。ただし遮熱タイプのLow-E複層ガラスの場合は逆に熱割れしづらくなるケースもあります。
ガラスにフィルムを貼る
特に遮熱フィルムなどは危険です。通常フィルム無しのガラスだと、太陽光は殆どが室内へ透過しますが、遮熱フィルムは吸収率が高いためガラスの温度を上げやすいです。一般にペアガラスで網入りガラスにフィルムを貼ると割れる確率が高くガラス業者は嫌がります。
ガラス一枚の面積が大きい
ガラスが大きいほど、中央と周辺の温度差が同じでも拘束力が大きくなるため、ガラスに発生する応力は大きくなります
ハマ欠けがある場合
ガラスのエッジに元々「ハマ欠け」がある場合、小さい温度差でも割れることがあります。ハマ欠けのサイズが小さくガラスの品質基準値以下でも影響が出る場合があります
ガラスグレイジングがシール
原因、メカニズムで解説した通りガラスがサッシ枠で拘束される事で発生応力が高くなります。樹脂製のビードより、接着固定されるシールの方が熱割れは発生しやすくなります
外部要因、環境要因
よく晴れた冬の寒い朝
晴れた日は太陽光でガラスの温度が上がりやすい一方で、外気は冷たくサッシ枠とガラスエッジの温度は低く、温度差は大きくなります。実際、熱割れの事例が多いのは圧倒的に良く晴れた冬の朝です
夏の暑い日
夏の暑い日に、室内の冷房の冷気が直接窓に当たる場合などでも発生します。強い太陽光が当たりガラスの中央は高温となる一方で、室内の冷気によりサッシ枠が冷やされ、ガラス一枚の中で大きな温度差が発生し、熱割れに繋がります。
南、東面のガラス
冬の朝とも関係しますが、朝日が昇る東や太陽光の強い南面がガラスの温度が上がりやすいです
バックボードや厚手のカーテンがある
カーテンウォールのスパンドレル部や柱前のガラスで、ガラスのすぐ後ろにバックボードが入る場合、またカーテンやブラインドがある場合です。室内側で熱が貯まりやすく、ガラス温度が上がり熱割れの可能性が高まります。類似条件としてガラスの内側にロッカーなど家具がある場合も熱割れの可能性が高まります。実際、バックボード付の窓のガラスは網入りガラスでなくても割れる事例が多いです
バックボードやカーテンが濃色
濃色は太陽光を吸収するため、熱が貯まりやすく熱割れの可能性があがります。意匠的にバックボードは濃色にする場合が多いですが、他の条件も加味して検討が必要です。最低でもバックボードを濃色とする場合は、ガラスは単板ガラスとした方が良いです。断熱はバックボード裏に断熱材を吹き付けて対応できます。上の写真では多くのガラスがバックボード付ですが、熱割れ配慮のため淡色を選択されている可能性も考えられます
サッシのフレームが淡色(シルバーなど)
バックボードとは逆で、サッシのフレームは淡色だと太陽光を吸収せず温度が低くなり、ガラス全体での温度差が大きくなります
ガラスに影が当たる(ルーバーや庇、電柱がある)
ガラスに日影が当たると、ガラス一枚の中での温度差が大きくなるため熱割れの可能性が高まります。日射遮蔽のために、サッシや外壁にルーバーなどを取り付ける事例が増えていますが、注意が必要です
ガラスにストーブの熱が直接当たる、冷房の風が当たる
住宅などで、直接ストーブの熱が当たりガラスが割れる事例は非常に多いです。逆に夏に冷気が直接当たる場合も危険です
熱割れする場合の対策
設計段階での対策
網入りガラスを耐熱強化、フロートガラスは強化ガラスに変える
許容応力度が高いガラスに変更することで、ガラスの温度が高くなっても割れることがありません。フロートガラスが許容応力度17.7MPaに対し強化ガラスは79.4MPaで熱割れの可能性はほぼありません
網入りペアガラスは網入りガラスを外部側に配置
基本的には冬に、室内側のガラスの温度が上がり割れますので、割れやすい網入りガラスを外部に配置するとよいでしょう
ガラスフィルムは中止、フィルム種類を変更、外部側に貼る
フィルムは危険ですので、採用には注意が必要です。日射吸収率(放射率)が低いフィルムは比較的安全です
サッシは濃色、バックボードやカーテンは淡色にする
サッシ枠が濃色だと太陽光を吸収しやすく温度が高くなるため安全です。バックボードが淡色だと太陽光を吸収しづらいため、内側の温度が低くなり熱割れは発生しづらくなります
バックボードに排熱用の穴をあける
バックボードに穴を開け、ガラスとバックボードの空間の熱を抜く方法が取られることがあります。この写真の事例では有孔ボードを利用しています。単純にバックボードに複数か所穴をあける場合も有ります。
ただし、採用にはいくつか注意点もあります。
- フロアを跨ぐスパンドレル部の場合、耐火性能に問題が無いか
- 天井裏の埃などが入り、ガラス内側の面が汚れないか
- 天井裏のRWや躯体の水分が入り、ガラスが結露しないか
施工後、管理運用での対策
後からフィルムを貼らない
使用者が後からフィルムを貼り、熱割れする事例があります
カーテンやブラインドをガラスに接近させ過ぎない
ガラスとの間に熱が籠らないように、適切に距離を開けることでリスクを下げることができます
暖房やストーブの熱がガラスに直接当たらないようにする
室内側のガラスが割れますので、直接の熱は非常に危険です
熱割れシミュレーション検討事例
下記条件での検討参考事例です
- ペアガラス (外部側)FL6+A12+網入りガラス6.8+遮熱フィルム貼(室内側)
- バックボード無し
- 面積1㎡
- 影は無し
- 検討ソフトは日本板硝子熱割れシミュレーションソフト
冬の南面でガラスが50℃を超えることが分かります。サッシの温度は9℃ですので、発生する温度差は40℃を超えます。ガラスに発生する応力は10.2MPa、網入りの許容9.8MPaなのでNG判定です
要因はフィルム貼りで室内側ガラスの温度がかなり上がる事。また、網入りガラスの許容値がフロートガラスに比べ低い事です。ガラスが同じ温度まで上昇したとしてもフロートガラスなら割れません。(フロートガラスの許容値は17.7MPa)
また、検討結果はあくまで参考値であり、以下のような状況が起こることもあるため余裕を持った設計が必要です
- 外がシミュレーションより寒い
- 暖房が直接当たる
- カーテンを厚手のものに変えた
- あとから出来た隣の建物の影がガラスに当たる
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